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ドリンクにフード
カフェであることを言い訳にしないクオリティを追求
「いま日本のカフェの食事メニューは、どれもいわゆる“カフェメシ”に走っているなと僕は思うんです」
アビルのコンセプトについて、清水崇史さんはそう切り出しました。
「コーヒーなどの飲み物、ケーキ、簡単な軽食。つまりお店としての用途が限定されているんじゃないか、と。
本来のカフェ、フランスのカフェでは、食事もお茶もできる場所として、そこに住む人たちの様々な生活のシーンで利用されています。僕とシェフの後藤さんが、以前勤めていたフレンチカフェを辞めて、このアビルを始めたのは、そんなお店をやってみたいと思ったからなんです」
コーヒー一杯でもいい、しっかりと食事をするのもいい、仲間とお酒を飲み交わすのもいい。そんな場所がカフェであり、アビルはそれを目指していると清水さんは話します。
「一日に二回でも三回でも利用できる場所でありたいです。あるテーブルでは年配の方がワインを空けて食事をしていて、その隣ではコーヒー一杯で若者がおしゃべりをしている。そんな空間が好きなんですね。そういう店が街に一軒あるといいな、と。僕自身もそういうお店がほしいですから」
そうすると料理もドリンクも普通のカフェ以上のレベルが求められることになります。
「ビストロやブラッセリーのような水準でありたいと思っています。いろいろな理由で一般的なカフェでは難しいことだと思いますが、だからこそ自分たちでそれをやりたい。その自信もあります」
アビルの料理はフレンチをベースに、スペイン料理のテイストを加えたものも並びます。今後は日本人好みの生魚系のメニューを加えることも考えているとのことです。
店内に並ぶ私物のインテリアが、”日常”を醸し出し、くつろげる空間を演出している。おいしい食事と楽しい会話、人と人が気軽にコミュニケーションできるカフェとして、スタッフの様々な工夫がされている。
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“もうひとつの日常”がある場所
そしてアビルの重要なコンセプト。それが“もうひとつの日常”です。おいしい料理と楽しい会話、落ち着いた空間がつなぐもう一つの日常。これが清水さんと後藤さんが掲げるアビルのコンセプト。
「レストランやビストロというのは特別な場所で、どちらかというと“非日常”に近い空間です。しかしアビルはカフェですから、やはり“日常”に近い存在だと思うんです。この店に来たら何となく落ち着く。なんか足が向いちゃう。お茶を飲むだけでも、一杯飲むだけでも、何ならただ挨拶だけしていく、それだけでもいいんです。仕事が忙しくて日常が落ち着かない時、アビルでもうひとつの日常に触れることによって、清々しい気持ちになれる。様々な人の日常を華やかにできる存在としてアビルが結びつけばいいな、と思っています」
店内のインテリアもほとんどが清水さんたちの私物。まさにもうひとつの日常がそこにあります。
アビルが“もうひとつの日常”であるために重要なのがコミュニケーション。清水さんはそう語ります。
「イタリアやフランスのカフェは本当に日常的な存在で、そこに毎日、様々な人が集まってコミュニケーションをして帰っていく。アビルもそんな存在にしたいですね」
そのための仕掛けとしてメニューの書き方にもひと工夫を加えています。
「あえて雑な書き方をしています。これって何ですか?とメニューについて質問してくださって、そこから自然と会話が始まることを狙っているんです。メニューを分かりやすくするのも大切だと思うんですが、お客様と話すのも大事。飲食店はただ食事するだけでなく、スタッフとお客様、お客様同士でコミュニケーションする場所だと思いますので、それを追求していきたいですね」
日本でもかつてそんなカフェのような場所がありました。清水さんは「赤提灯」こそが日本におけるカフェのような存在だったと言います。いまたくさんある「居酒屋」とは違い、女将さんや店主、お客さんどうしの絡みがある場所。飲食業が効率化される中で赤提灯のような場所は次第に姿を消していき、いまではメニューのオーダーすらタッチパネルで済ましてしまうような時代です。
清水さんたちは、そんな効率化の傾向にあえて背を向けて、飲食店の原点を目指していきます。
「難しいことかもしれない。だからこそ自分たちでそれをやりたい」
下北沢では比較的、喧噪から遠い一番街。そこに佇むカフェ、アビル。そこで清水さんたちの静かな挑戦が続きます。
東京都世田谷区北沢3-30-3
03-6407-9242
営業時間
11:00~24:00
火曜定休
http://www.abill.jp/
フランス料理をベースに、スペイン料理のテイストも加えた、本格料理が楽しめます。人気は「海と山のミックスパエリア」。レギュラーメニュー以外にもスタッフと会話しながら選ぶ黒板メニューもおすすめ。